特撮×安全保障、とその他

安全保障を生業とし、特撮を愛する作者のブログです

【書籍】「新書で大学の教養科目をモノにする 政治学」 浅羽通明著 (2/2) 

前回に引き続き、教養科目として政治学を学ぶ本書について書いていきたいと思います。

https://www.amazon.co.jp/新書で大学の教養科目をモノにする-政治学-光文社新書-浅羽通明/dp/4334036295

 

②官僚制という機構の特徴(独国学者 マックス・ヴェーバー

統治機構の一例である「官僚制」。メディア等で叩かれることの多い官僚という語には、必ずしもよいイメージはないかもしれません。

 

他方で、「官僚制」を定義しろと言われ、即座に答えられる人は少ないのではないでしょうか。

 

政治学者、社会学者として高名なマックス・ヴェーバーは機構としての官僚制特徴を指摘しています。

 

機能的な分業・協同システムが整っている、㋑命令服従系として階層的構造に秩序付けられている、㋒公務のための資材・道具が公的である、㋓事務処理が文書中心であり、職務の過程、責任の所在が記録されている、㋔公務員が専門的資格を持っており、訓練を受け・公務を専業とする、という5点が挙げられます。

 

現代社会を生きる我々からは、いずれの条件も当然のように受け取られ、「何を今更」って感じかもしれません。

 

しかしながら、穿った見方をすれば、あらゆる組織がすでに官僚組織的な特徴を備えているために、敢えて自覚されないのかもしれません。

 

㋐及び㋑は組織全体のリソースの選択と集中をするとともに、秩序立てた階層構造(=ピラミッド構造)にまとめ上げることを意味します。組織内の各構成員の任務・責任の範囲が明確な組織をデザインすることで、組織体としての効率的な動きを可能にします。

 

㋐及び㋑の組織であれば、各構成員は代替可能となりますが、それを制度的に担保するのが、㋔でしょう。専門的能力を有した専業の者があてがわれることで、組織全体の働きを乱すことなく、構成員の交代が可能となります。また、構成員の「私」的な財産と、任務で使用する「公」的な財産を峻別し、任務に専念させるのが㋒です。

 

各過程を記録する㋓も、職務の過程や責任の所在のみならず、それまでの組織としての活動を残すことで、組織としての連続性を担保することにもなります。

 

これらの特徴は一般の会社組織にも当てはまるのがわかるでしょう。それぞれの職種(営業、経理、開発等)に専門化された従業員がある日突然退職したとしても、同様の専門性を有する者が代わりになることで、組織は維持されます。役職ごとに責任は整理されており、仕事で使う備品を自腹で買うことも稀でしょう。また、会社の重要な事項は、登記をはじめとして当然のように文書にされているはずです。

 

特撮においても、悪の組織ショッカーをはじめ、組織の構造は<大ボスー幹部ー戦闘員>という形になっています。文書中心の事務管理は甚だ怪しく、任務に失敗した構成員は抹殺されてしまいますが、概ね官僚制の要件は満たしているようです。

 

敵役としてはむしろ、仮面ライダークウガの敵であり、「ゲゲル」として娯楽目的で人類に牙を剥いたグロンギのような例外はあるものの、概ね、官僚的な組織が背景にあると言えるかもしれません。

 

それに引き換え、孤軍奮闘であったり、アドホックな共闘で対症療法的に戦うことしかしない正義の味方の方が、官僚的な組織とは程遠いようです。特に仮面ライダー系に顕著です。

 

(余談ながら、昔の戦隊ものの方が、国連のような公の組織の関与があった気がします。この点は、また別の記事で。)

 

悪いことをしているはずの悪の組織の方が、より練られた組織を維持しているというのもなんとも皮肉です。

 

悪いことをする方が組織力がいるのかもしれませんね。

 

ほぼ官僚制の考察になってしまいましたが、今回はここまでにします。

【書籍】「新書で大学の教養科目をモノにする 政治学」 浅羽通明著 (1/2) 

こんにちは。
今回取り上げるのは、ズバリ一般教養科目です。
 
大学等で専門科目と別個に取り上げられることが多い「(一般)教養科目」。いわゆるリベラル・アーツと呼ばれるものです。
 
教養科目は、「一つの科目を深堀り」というより、基本となりそうな複数の科目を構造的に学ぶことが多く、反面、断片的になりがちに感じます(…私だけでしょうか)。
 
また、私は社会科学系を中心に専攻をしていましたが、その中でも、とりわけ政治学は簡潔にまとめる(=人に説明する)ことが難しく、捉えどころがない学問として、苦い思い出があります。
 
前置きが長くなりましたが、今回おススメしたいのは、そんな私も納得の一冊

大学の教養科目という切り口で政治学をまとめた新書(タイトルままですが)です。

https://www.amazon.co.jp/新書で大学の教養科目をモノにする-政治学-光文社新書-浅羽通明/dp/4334036295

 
なお、政治学と安全保障と直接的な関係は見えにくいかもしれませんが、政治・権力の構造、政治制度、政治課程論等は、いわば「統治」のためのハウツーと呼べるもので、根源的なところでリンクしています
 
本書は、政治経済学の講師であり叙述家の著者が、社会人の教養という視点から政治学をまとめたものです。「権力がいかにして権威付けられ、維持されるのか」という根本的な問に対して、実体論、関係論、比較論、手続論等から多角的に答える重厚な内容ながら、同時に「スラスラ読める教科書」(←一見して矛盾してそうですが…)のテイストを有しているのが特徴的です。
 

①権力の分類(米国学者 アミタイ・エツィオーニによる)

本書では偉大な学者の方々が残した学問的知恵を端的に紹介してくれています(私が直接、原典に当たるべきなのですが…)。
まずは、そのうち権力の分類について。
 
権力には大きく分けて3類型があり、㋐強制的権力、㋑報酬的権力、㋒規範的権力が挙げられます。
 
 
強制的権力とは、物理的権力による身体への処罰またはその脅迫によって服従調達することです。
 
特撮でいえば、悪の軍団ショッカーをはじめ大抵悪の組織が採用する、最もオーソドックスな方法と言えそうです。
 
最も直接的かつダイレクトなので手っ取り早くみえますが、反面、既存勢力等からは最も反発を受けてしまう方法でもあります。
 
ショッカーの企みも、露見し次第、ライダーに見つかって蹴散らされる、の繰り返しです。
 
現実の外交では、実力行使による服従の調達は最後の手段と考えられており、国同士のconflictの最終段階と位置付けられます。いわゆ戦争状態です。
 
 
報酬的権力とは、物質的利害による勧誘、利益供与(減税など)により服従を調達することです。
 
悪の組織で採用されることは多くなさそうですが、例えば、激走戦隊カーレンジャーの敵宇宙暴走族ボーゾックの怪人で、同組織内で最も偏差値が高いとされるT・T・テルリンなどはその典型といえるかもしれません。
 
テルリンは、「ボーゾックスイカ割り大会」に必要なスイカを調達すべく、子供たちに的を絞った作戦を立てます。それが、子供たちの夏休みの宿題を解くのと引き換えに、スイカを持ってこさせる、というものでした。
 
何やかんやで暴走したテルリンはカーレンジャーに倒されますが、アプローチの仕方が出色でしたので印象的でした。そもそも、八百屋(より現実的には青果市場?)を敢えて襲わないあたり、テルリンのこだわりが窺えます。
 
現実の世界では、経済的な利害関係をベースとした関係において、片方が権力を握る構造に似ているかもしれません。例えば、大国の貿易政策に翻弄され、追従を余儀なくされる小国の立場が挙げられます。
 
 
規範的権力とは、象徴的価値の操作により自らの権威を高め、自発的に服従をさせることです。
 
特撮においては、仮面ライダーV3の敵で登場したキバ男爵率いるドーブー教のように、宗教的教義と結びついた権力の発揮の例が見られます。
 
また、逆のアプローチとして、仮面ライダーに対するニセ(ショッカー)ライダーも挙げられるかもしれません。
 
改造人間として(味方らしいけど)不審な存在である仮面ライダーに似せた存在に悪さをさせることで、「正義の象徴」である仮面ライダーの規範的権力の失墜を目論んだと言えそうです。
 
現実の世界では、イデオロギー政治的主張の対立の文脈において見られる、物理的な実力行使を伴わない権力争いが類似しているかもしれません。
 
 
長くなってしまったので、続きは次の記事に回します。
 

【書籍】「組織で悩むアナタのための世界史」 ゆげひろのぶ著

「世界史」というと、好きな人、嫌いな人が分かれますよね。
○○クレテス、××の戦い、▲▲条約(後に破棄)等々…覚えることが多いイメージはあります。
 
かくいう私は世界史が大好きです。
各時代、場所の人たちのロマンが詰まったゴシップを楽しんでいるようなワクワク感を感じてしまうからです。
 

今回ご紹介したい書籍は、このようなワクワクを残しつつ、実社会での組織論に当てはめた良作です!

本作では、世界史専門の予備校を経営する著者が、世界史の観点を踏まえ、古今東西の組織が共通して抱える悩みにスポットを当てて解説しています。
(概説に留めておりますが、ネタバレ的部分がありましたらご容赦ください)
 
①軍隊にとって、兵士は替えの利く消耗品だが、将校は替えが利かない
 
本書の副題である「なぜ将校は馬に乗るのか」(的な)文言に対する一つのアンサーです。
 
特撮でいえば、ショッカーの戦闘員と幹部怪人イカデビルは等価ではないということでしょう。
(注)ショッカーという組織、イカデビルという怪人はいずれも初代仮面ライダーに登場します。
 
ただイーッ(掛け声)と言いつつ仮面ライダーに瞬殺される戦闘員と、他の怪人を統率しつつ、自身もインテリらしからぬ戦闘力を発揮するイカデビルの組織にとっての価値は同じではない、ということでしょう。
 
現実の世界では、そのことが指揮官の配置、撤退のタイミングに反映されます。指揮官は前に出ることなく、撤退も一番にする。
 …特撮の世界では当たり前に描かれる幹部怪人も、現実の戦略の文脈では非人道的な選択っぽくなるようです。(ショッカーはそもそも悪の組織ですが)
 
悪の軍団ショッカーも、人材育成費、希少性から戦略を練っていたのかもしれませんね。(劇中では伺えませんが)
 
②敵の組織性を破壊するではなく、組織性を維持させたまま降伏させるべき。敵のトップの首をとってはいけない
 
組織同士で敵対した以上、相手の組織を徹底的に破壊するのが正しい戦略だ。自分もそう考えていました。
 
しかし、倒した後のことを考えると、徹底した破壊は資源の無駄遣いである、ということのようです。
 
敵対していた組織が有していた資源は、個々の資源(ヒト、モノ、カネ 等々)の総体ではなく、それらに+αされたものといえます。
 
会社買収におけるM&Aの議論にも通じるものがありますが、相手が組織として持っている強み(知的財産等の参入障壁、個別の生産ライン・販路、営業の得意先等)を活用するほうが効率的であると言えるのかもしれません。
 
特撮でいえば、ショッカーからゲルショッカーへの移行が、組織が別組織へと変わる一例といえるかもしれません。
 
ゲルショッカーとは、自らの組織に見切りをつけたショッカー首領が、アフリカを拠点とするゲルダム団を合併させて誕生した組織です(上記のM&Aの構造に似ています)。
 
とはいえ、穏当な合併ではなかったようで、当初はショッカーの「残党狩り」も実施されており、組織性を十全に活かせてはなかったことが窺えます。
 
特撮の世界に限ったことではなく、敵対した組織の取り込みというのは大きなテーマのようですね。 
 
③組織内での情報共有の難しさ
古今東西の国家等で常に問題となることかもしれませんが、必要な情報を組織内で共有する、ということは一筋縄ではいきません。
 
いわゆる諜報機関は、時の政権からある程度独立した権限を有することが多く、また、各組織の国家への貢献度は得られた情報の質・量で評価される、といわれます。
 
その結果が、組織内の機関同士での情報の排他的な所有や隠ぺいでしょう。
 
特撮でありがちな構図では、悪の幹部内でいがみ合っている者同士が足を引っ張りあう、という描かれ方をしたりします。仮面ライダーブラックRXの敵であるクライシス帝国の4幹部(ボスガン、マリバロン、ガデゾーン及びゲドリアン)それぞれの葛藤などは典型かもしれません。
 
現実世界でも、米国の諜報機関同士の情報の取り合いが話題になることがあります。国家安全保障局(NSA)、中央情報局(CIA)、連邦捜査局FBI)、各軍種の諜報機関等々、組織同士の葛藤は課題のようです。
 
 
これら以外にも、商家に女系が多い理由、等の面白いテーマが扱われている興味深い一冊です。

(テーマ)特撮と安全保障

閲覧頂きありがとうございます。

今回、はじめてブログをはじめてみました。くまきちと申します。

 

「特撮」と「安全保障」。一見何の関りもない両者がなぜテーマなのか、と疑問に思われる方のほうが多いかもしれません。

 

ずばり、本ブログの趣旨は勧善懲悪への疑問です。

 

正義のヒーローが悪い(そして怖い)奴らを倒す特撮。

国際社会を時として「善」と「悪」で語る安全保障(…そんなに簡単ではないでしょうが)。

 

どちらかを深堀したものは多くても、両方を関連付けて語ることは案外少ないのではないでしょうか。

 

安全保障に携わる自分が、趣味の特撮と絡めて書いていきたいと思います。

興味深い書籍や特撮のレビューもしていきたいです。

 

「安全保障」と銘打ちつつや、戦略論、世界史、哲学等々の話題も含めて取り上げますが、読んで頂けたら嬉しいです。