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【書籍】「組織で悩むアナタのための世界史」 ゆげひろのぶ著

「世界史」というと、好きな人、嫌いな人が分かれますよね。
○○クレテス、××の戦い、▲▲条約(後に破棄)等々…覚えることが多いイメージはあります。
 
かくいう私は世界史が大好きです。
各時代、場所の人たちのロマンが詰まったゴシップを楽しんでいるようなワクワク感を感じてしまうからです。
 

今回ご紹介したい書籍は、このようなワクワクを残しつつ、実社会での組織論に当てはめた良作です!

本作では、世界史専門の予備校を経営する著者が、世界史の観点を踏まえ、古今東西の組織が共通して抱える悩みにスポットを当てて解説しています。
(概説に留めておりますが、ネタバレ的部分がありましたらご容赦ください)
 
①軍隊にとって、兵士は替えの利く消耗品だが、将校は替えが利かない
 
本書の副題である「なぜ将校は馬に乗るのか」(的な)文言に対する一つのアンサーです。
 
特撮でいえば、ショッカーの戦闘員と幹部怪人イカデビルは等価ではないということでしょう。
(注)ショッカーという組織、イカデビルという怪人はいずれも初代仮面ライダーに登場します。
 
ただイーッ(掛け声)と言いつつ仮面ライダーに瞬殺される戦闘員と、他の怪人を統率しつつ、自身もインテリらしからぬ戦闘力を発揮するイカデビルの組織にとっての価値は同じではない、ということでしょう。
 
現実の世界では、そのことが指揮官の配置、撤退のタイミングに反映されます。指揮官は前に出ることなく、撤退も一番にする。
 …特撮の世界では当たり前に描かれる幹部怪人も、現実の戦略の文脈では非人道的な選択っぽくなるようです。(ショッカーはそもそも悪の組織ですが)
 
悪の軍団ショッカーも、人材育成費、希少性から戦略を練っていたのかもしれませんね。(劇中では伺えませんが)
 
②敵の組織性を破壊するではなく、組織性を維持させたまま降伏させるべき。敵のトップの首をとってはいけない
 
組織同士で敵対した以上、相手の組織を徹底的に破壊するのが正しい戦略だ。自分もそう考えていました。
 
しかし、倒した後のことを考えると、徹底した破壊は資源の無駄遣いである、ということのようです。
 
敵対していた組織が有していた資源は、個々の資源(ヒト、モノ、カネ 等々)の総体ではなく、それらに+αされたものといえます。
 
会社買収におけるM&Aの議論にも通じるものがありますが、相手が組織として持っている強み(知的財産等の参入障壁、個別の生産ライン・販路、営業の得意先等)を活用するほうが効率的であると言えるのかもしれません。
 
特撮でいえば、ショッカーからゲルショッカーへの移行が、組織が別組織へと変わる一例といえるかもしれません。
 
ゲルショッカーとは、自らの組織に見切りをつけたショッカー首領が、アフリカを拠点とするゲルダム団を合併させて誕生した組織です(上記のM&Aの構造に似ています)。
 
とはいえ、穏当な合併ではなかったようで、当初はショッカーの「残党狩り」も実施されており、組織性を十全に活かせてはなかったことが窺えます。
 
特撮の世界に限ったことではなく、敵対した組織の取り込みというのは大きなテーマのようですね。 
 
③組織内での情報共有の難しさ
古今東西の国家等で常に問題となることかもしれませんが、必要な情報を組織内で共有する、ということは一筋縄ではいきません。
 
いわゆる諜報機関は、時の政権からある程度独立した権限を有することが多く、また、各組織の国家への貢献度は得られた情報の質・量で評価される、といわれます。
 
その結果が、組織内の機関同士での情報の排他的な所有や隠ぺいでしょう。
 
特撮でありがちな構図では、悪の幹部内でいがみ合っている者同士が足を引っ張りあう、という描かれ方をしたりします。仮面ライダーブラックRXの敵であるクライシス帝国の4幹部(ボスガン、マリバロン、ガデゾーン及びゲドリアン)それぞれの葛藤などは典型かもしれません。
 
現実世界でも、米国の諜報機関同士の情報の取り合いが話題になることがあります。国家安全保障局(NSA)、中央情報局(CIA)、連邦捜査局FBI)、各軍種の諜報機関等々、組織同士の葛藤は課題のようです。
 
 
これら以外にも、商家に女系が多い理由、等の面白いテーマが扱われている興味深い一冊です。